ご挨拶
院長 医学博士 杉本 一郎
杉本 嘉朗
強かった日差しも和らぎ、日が暮れる時刻も1日ごとに早くなる秋を迎えました。皆さんいかがお過ごしでしょうか。手指消毒やマスク着用などの感染対策もすでに身についた観がありますが、新型コロナウイルスだけでなく、インフルエンザをはじめとしたさまざまな感染症も予防できるので、油断せずに予防の習慣をお守りください。
秋は祝祭日が多く、並びがよければ春のゴールデンウイークに準じるシルバーウイークと呼ばれるような連休になることがあります。
2021年は東京オリンピック開催のために夏に動いたスポーツの日。もとは1964年の東京オリンピックの開催日と決められた体育の日ですが、10月に戻ってきました。今ではスポーツの日(体育の日)は10月の第2月曜日となっていますが、それ以前は10月10日。「この日は最も晴れやすいと日だから、オリンピックの開催日となった」と思われがちですが、実は過去の統計を見るとそうとはいえません。1964年10月10日の東京の天候は快晴でしたが、前日の天気は荒れ気味で関係者はハラハラしたという話もあります。
オリンピックのような大きなイベントは何年も前から開催日を決めなければなりませんから、当日の天気を予測することは大変難しいことです。しかし、今では翌日、当日の天気を相当正確に予測できるようになってきました。また、ゴルフ場など特定の場所に限定した天気予報サービスも始まっています。
テレビやネットで天気予報を確認する習慣が身についている人は多いと思いますが、「雨が降るなら傘を持っていこう」という受け身の利用法だけでなく、「今日は雨が降らず湿度が低いから…しよう」「今日は曇りで日差しが強くないから…しよう」という行動的な形で、天気予報を生活にメリハリをつけるために活用してはいかがでしょう。
今号の内容
詳細は「杉本クリニックだより」をご覧ください。
・手指の痛みや腫れに悩んでいませんか?
・そうだったんだ 体のしくみ
脳の働き
・初めての介護サービス
介護サービスの種類と具体的内容2
・お薬百科 医療機関で処方される薬を知ろう
膠原病・自己免疫疾患の薬編
・空の歳時記
八幡平(秋田県、岩手県)
・ひとくち病気解説
生体ポリープ
杉本クリニックだよりは窓口で無料でお配りしています。
手指の痛みや腫れに悩んでいませんか?
もしかしてへバーデン結節?それとも関節リウマチ?
怪我をした覚えもないのに、手の指がいつまでも痛かったり、腫れていたりしていませんか。また、以前が滑らかだった指のラインが、いつの間にかごつごつしてきたり、何となく指先が曲がってきたと感じることありませんか。今回はこんな手指のトラブルについて解説します。
手指が痛んだり動きにくかったりすると、書きものや家事、スマホの操作など、仕事や日常生活がとても不便になってしまいます。やけどや骨折、虫刺され、感染症など、突発的な原因で起こるトラブルもありますが、ここでは、治りにくかったり、だんだんひどくなることもある慢性のトラブルの中で、比較的多くの人が悩んでいるものを紹介します。
ヘバーデン結節
「ヘバーデン結節」は最近、健康雑誌や書籍で取り上げられる機会が多くなったので、耳にしたことがある人がいるかもしれません。
ヘバーデン結節は、主に人差し指から小指までの指の先端に最も近い第1関節の部分に、骨のとげが生じたり関節の軟骨がすり減って起こる病気です。関節付近がごつごつした外観になり、痛みや腫れがでたり、指が曲がったりします。
原因は不明ですが、40歳代以降の女性に多く、手指に負担がかかる作業をする人がかかりやすいとされています。
複数の指で同時に起きることもあり、まれに親指の第1関節に生じることもあります。膝などにも起こることがある変形性関節症の一種とされ、変形の程度や痛みには個人差があります。
手仕事などを控えめにして、変形や痛みが気になるようなら医療機関を受診しましょう。状態や症状に応じて、投薬やテーピング、手術などの治療が行われます。
ヘバーデン結節では、指の背側に「ミューカスシスト」と呼ばれる水ぶくれのようなものができることもあります。これはこすれてできるマメと違って関節の内部とつながっているので、つぶれると関節の中に菌が入り、関節炎を起こすことがあります。自分でつぶしたりせず、医療機関で処置や投薬を受けることをお勧めします。
ブシャール結節
ヘバーデン結節と同様の変形性関節症が指の先端から2つ目の第2関節で起きるのが「ブシャール結節」です。症状や治療法、注意事項などはヘバーデン結節と同様ですが、第2関節の痛みや腫れは、次に紹介する関節リウマチが原因で起きる場合もあるので、注意が必要です。
関節リウマチ
関節リウマチは、30~40歳代の女性が発症することが多い病気です。手指では、第2関節や指の付け根の関節、手首の付け根の関節などに痛みや腫れが起きることが多く、関節部分がぶよっとした紡錘状に腫れます。また、朝方にこわばりが強くなるのが典型的な症状です。
関節リウマチは全身の病気で、放置すると関節の破壊が進みますが、早朝に治療を始めれば、関節の変形が少ない状態を長く維持できることが多いので、全身のどこでも関節の腫れや痛みが気になったら、リウマチ内科や整形外科を早めに受診するとよいでしょう。
ばね指
指を曲げる力は筋肉から腱に伝えられますが、この腱は腱鞘と呼ばれるベルト通しのような部分をくぐっていて、腱が指からはなれないようになっています。この腱や腱鞘に炎症が発生すると、腱が腱鞘に引っかかり、ばねで弾かれたように「かくっ」と動くばね指になることがあります。
治療法には、関節を固定して休ませる方法やステロイド注射、腱鞘を切開する手術などがあります。
このほかにも、手指の痛みや腫れ、しびれなどが起こる病気として、手の神経が圧迫される手根管症候群や線維筋痛症、頸椎症、糖尿病、全身症エリテマトーデス(SLE)などがあります。また、更年期症状の一種として、関節リウマチに似た関節痛やこわばりを生じることもあります。
思い当たる原因もなく、手指の痛みや腫れが長く続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
そうだったんだ 体のしくみ 脳の働き
【大脳の指令は脳幹から脊髄へ】
脳は体全体をコントロールする重要な器官で、大脳、間脳、小脳、脳幹(中脳、橋、延髄)の4つに大きく分けられます(図1)。間脳を脳幹、その下にある脊髄を通って、体の各器官に送られます。
大脳は左右2つの大脳半球からなり、その間にある「脳梁」は神経線維の集まりで、左右の脳をつないでいます。大脳の表面は「大脳皮質」といい、神経細胞が集まっているところです。大脳皮質の厚さは2~3㎜で大脳皮質には「中心溝」など3つの溝があり、それによって前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つに分けられています。
また機能的に感覚野、運動野、聴覚野、視覚野、連合野に分けることもできます(図2)。目から入った情報は視覚野に伝わり、耳から入った情報は聴覚野に、温度や痛み、触覚は感覚野に伝わります。側頭連合野や頭頂連合野ではそれらの情報を統合して、前頭葉の前頭連合野に伝えます。前頭連合野は判断や思考、情動をつかさどる部分で、集められた情報を元に、運動野に指令を送り、手や足など体の各部の運動を実行します。ヒトの前頭連合野は大脳皮質の30%を占め、他の動物に比べて大きいのが特徴です。
たとえば横断歩道で青信号を見たら、目の情報が視覚野に伝わり、前頭連合野からの指令で足を動かそうとします。ところが同時に、車が近づく音が聞こえると、聴覚野からの情報も前頭連合野に伝わって、歩き出すのを止めるように指令を送るのです。
【左右で異なる機能左脳は言語を担当】
大脳は左右で機能が異なります。一般的に、左脳は言語の理解や計算など、右脳は空間の認識や音楽などに関連しています。また左右の脳は体の反対側を担当します。左脳は右手の感覚や運動、視野の右半分を、右脳は左手の感覚や運動、視野の左半分を管理しています。左右の脳は脳梁で情報をやりとりし、連携して機能するのです。
左脳の前頭葉下部には言語に関する領域(ブローカ野)があり、この部分が障害されると、言語は理解でするのですが、発語ができなくなります。また左脳の側頭葉にある領域(ウェルニッケ野)が障害されると、言語が理解できず、発語はできますが、言い間違いが多くなります。これらは失語症といわれています。
【脳幹の働きが生命維持に不可欠】
小脳は運動や姿勢の調節をしています。小脳の機能が障害されると、運動失調と呼ばれる症状が起こり、歩行時にふらついたり、細かい動作ができず、言葉がとぎれとぎれにな
ったりします。
脳幹は呼吸や心臓・血管の調節など、生きていくために必要な働きをつかさどる部
分です。脳幹の機能が消失すると、生命を維持することができなくなります。
脳死は脳幹を含む脳全体の働きがなくなった状態で、人工呼吸器などを用いなければやがて心臓は停止してしまいます。一方、植物状態は脳幹の機能は残っており、呼吸ができ心臓も安定して動いている状態のことです。
間脳は自律神経や内分泌の調整をしています。視床、視床下部、視床上部の3つの領域があり、視床下部では体温調節や睡眠・覚醒リズムの調節などを行います。視床上部の一部(松果体)もメラトニンというホルモンを合成・分泌して、睡眠の調整をしています。
初めての介護サービス
家族が急に入院!どうする!? お金、手続き、情報の集め方
監修: 早稲田大学人間科学学術院 健康福祉学科 教授 植村 尚史氏
京都大学法学部卒業後、厚生省(当時)入賞。内閣法制局参事官、厚生省保健社会統計課長、社会保険庁企画・年金管理課長、国立社会保障・人口問題研究所副所長をへて、2003年4月から現職。著書に『〔図説〕これからはじめる社会保障』『若者が求める年金改革』など。
介護サービスの種類と具体的内容2
療養生活の質の向上及び家族の介護負担の軽減などが目的
短期型
〇短期入所生活介護(ショートステイ)
普段は自宅で暮らしている人が、本人の都合や家族の事情などにより介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)に一時的に入所するサービスです。ショートステイと呼ばれます。連続して利用できる日数は30日までです。
〇短期入所療養介護
普段は自宅で暮らしている人で医療的なケアが必要な人が、本人の都合や家族の事情などにより利用できる医療型ショートステイのことです。
インスリン自己注射が必要な人、喀痰吸引が必要な人、認知症の人などが対象となります。
同じ施設、同じスタッフで「訪問」「通い」「宿泊」を組み合わせる
組み合わせ型
〇小規模多機能型居宅介護
利用者の選択に応じて、小規模な施設への「通い」を中心として、短期間の「宿泊」や利用者の自宅への「訪問」を組み合わせて利用できるサービスです。
一つの事業所と契約し、「通い」「宿泊」「訪問」の各サービスが受けられるので、手続きの煩雑さがありません。スタッフもほぼ同じため、顔なじみのスタッフからケアを受けることができます。
〇小規模多機能型居宅介護
看護の「複合型サービス」
医療的なケアが必要な人が、施設への「通い」を中心に、短期間の「宿泊」や利用者の自宅への「訪問(介護)」の各サービスを必要に応じて組み合わせて利用できるサービスです。小規模多機能型居宅介護に、訪問看護をプラスしたイメージです。
要支援1、2の人は利用できません。
必要な介護、看護サービスを利用し、できるだけ自立した暮らしを
施設入所
〇介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
可能な限り在宅復帰できることを念頭に、常に介護が必要人の入所を受け入れ、入浴や食事などの日常生活上の支援や、機能訓練などを提供します。要支援1、2の人は利用できません。
〇介護老人保護施設
在宅復帰を目指している人が可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、リハビリや必要な医療、介護サービスを受けることができます。施設サービス費のほか、居住費・食費・日常生活費などがかかります。施設サービス費は、施設の形態、居室の種類、職員の配置などによって異なります。要支援1、2の人は利用できません。
〇介護療養型医療施設
急性期の治療が終わり、病状は安定しているものの長期にわたって療養が必要な人が入所し、リハビリや医療、介護を受けることができます。
要支援1、2の人は利用できません。2024年3月末までに廃止予定で、その転換先として、2018年「介護医療院」が創設されました。
〇認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
認知症の利用者を対象に専門的なケアを提供するサービスです。可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう家庭的な環境と地域住民との交流の下で、食事や入浴などの日常生活上の支援や、機能訓練などのサービスを受けることができます。
〇特定施設入居者生活介護
特定施設入居者生活介護(介護予防含む)の指定を受けた有料老人ホームや軽費老人ホームなどで、食事や入浴などの日常生活上の支援や、リハビリなどを受けることができます。
お薬百科 医療機関で処方される薬を知ろう
膠原病・自己免疫疾患の薬編
医師が処方する薬の役割を知っておくと、治療の狙いがよく理解できます。
2000年代に入ってから関節リウマチの治療薬として登場した生物学的製剤やJAK阻害薬は、免疫システムの異常な働きを効果的に抑えることができ、患者さんの生活の質向上に大きく貢献しています。最近では、関節リウマチ以外の膠原病や乾癖などに使える薬が増え、選択肢が広がっています。
潰瘍性大腸炎(UC)
炎症性腸疾患(IBD)の一種で、大腸表面の粘膜に炎症が発生し、血便や下町、腹痛などの症状が表れます。潰瘍性大腸炎に適応がある生物学的製剤・JAK阻害薬には、TNFα阻害薬のアダリムマブ、インフリキシマブ、ゴリムマブ、IL‐12/23阻害薬のウステキヌマブ、α4β7インテグリン阻害薬のベドリズマブ、JAK1/3阻害薬のトファシチニブがあります。
クローン病(CD)
クローン病は、口の中から肛門までの消化管のさまざまな部位に炎症や潰瘍が発生し、全身にいろいろな合併症が起きることがある病気です。クローン病に適応がある生物学的製剤には、TNFα阻害薬のアダリムマブ、インフリキシマブ、IL‐12/23阻害薬のウステキヌマブ、α4β7インテグリン阻害薬のベドリズマブがあります。
全身性エリテマトーデス(SLE)
SLEは代表的な膠原病で、皮膚、関節、腎臓、神経、心臓・血管など中心に全身に炎症による病変が生じます。良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の病気です。SLEに適応がある生物学的製剤としては、BLYS阻害薬のベリムマブとI型インターフェロン阻害薬のアニフロルマブがあります。
全身性強皮症
全身の皮膚や内臓が線維化して硬くなる慢性の病気です。血管や消化管なども硬化するため、逆流性食道炎や肺高血圧症などを合併します。全身性強皮症に対しては、原因の一端と考えられてB細胞を除去する抗CD20抗体薬のリツキシマブが2021年9月に保険適用されました。
尋常性乾癖・関節症性乾癖
尋常性乾癖は、全身の皮膚に盛り上がった赤い部分(紅斑)が生じ、銀白色のふけのようになってはがれ落ちていく慢性の病気です。また、関節症性乾癖は、皮膚症状のほか、手足や首などの関節に炎症や痛み、こわばりなどを伴います。
尋常性乾癖と関節症性乾癖に適応がある生物学的製剤・JAK阻害薬には、TNFα阻害薬のアダリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブ、IL‐17阻害薬のイキセキズマブ、セクキヌマブ、プロダルマブ、IL‐23阻害薬のグセルクマブ、リサンキズマブ、IL‐12/23阻害薬のウステキヌマブがあります。
また、IL‐17阻害薬のビメキズマブとIL‐23阻害薬のチルドラキズマブは尋常性乾癖のみ適応、JAK1阻害薬のウパダシチニブは関節症性乾癖のみ適応の薬です。
ベーチェット病
全身にさまざまな症状を引き起こす炎症性の病気です。口内炎、皮膚の紅斑や発疹、外陰部の潰瘍、眼の痛みや炎症が起きるぶどう膜炎の4つが特徴的とされています。適応がある生物学的製剤は、TNFα阻害薬のアダリムマブとインフリキシマブです。
一口病気解説 声帯ポリープ
ポリープ(くびれのある腫瘤)が声帯にできたものを声帯ポリープといいます。声帯ポリープができると、声帯が正しく振動できず、嗄れ声になります。ポリープが大きくなると呼吸困難になることもあります。こうした場合や嗄れ声が長い間続いて治らない時は、耳鼻咽喉科で診断と治療を受けるようにしましょう。
声帯ポリープの診断は、喉頭鏡(内視鏡)などで声帯を診るだけで診断でき、ポリープが大きい場合は顕微鏡を見ながら切除すると簡単に治ります。
声帯ポリープにかかりやすい人としては、歌手や教師など声を使う職業の人や、スポーツで大声を出すような子ども、またカラオケの好きな人などにも多いようです。
近年カラオケでポリープができたという人が増えたといわれていますが、一概にカラオケが悪いと決めつけるわけにはいきません。カラオケは精神的面だけではなく、肉体的にも健康にも良い面があるといわれているからです。大声で歌うことは、日頃のストレスを発散して、さらに大きく息を吸い込むことから、呼吸器だけでなく循環器などの内臓の健康維持にも良いといわれています。
高齢者の医療・福祉施設などでもカラオケを用意しているところも多く、歌の好きな高齢者はカラオケを利用しているようです。
では声帯ポリープにならないようにするには、どのような方法がよいのでしょう。まず、歌を歌いながら喫煙や飲酒をしてしまいがちですが、これはなるべく控えめにすることです。飲酒や喫煙は喉の炎症を助長する恐れがあるからです。また、何曲も続けて歌わないことです。そして、体調の悪い時は控えて、自分の音域をあまりはずさずに歌いましょう。このような対処により、声帯を傷める危険性はぐんと低くなるはずです。