ご挨拶
朝夕は少しずつ涼しさが感じられるようになりました。これからは一雨ごとに秋が深まっていきますが、大雨や洪水、台風などの水害も起きやすくなります。いざという時に備えて、懐中電灯や電池、ろうそく、ラジオなどを手元に用意し、断水に備えて飲料水の備蓄、浴槽に水を張るなど生活用水の確保もしておきましょう。日ごろから、避難所の場所や経路を家庭で確認しておくことも大切です。
さて、皆さんは「ヘルプマーク」をご存じでしょうか。長方形の赤い地色に、白い十字とハートが縦に並んでいるマークです。外見は健康そうに見えても、何らかの不自由を抱えていて、援助や支援、声掛けなどを必要としている人たちが、周囲の援助を得やすくなるように作成されました。
バッグやリュック、つえなどにヘルプマークを付けている人を見かけたら、ぜひ次の3つの行動を心掛けていただきたいと思います。
- 電車やバスの中で席を譲ること。見た目にはわからなくても、立っていたりつり革につかまり続けることが困難だったりする場合があります。
- 駅や商業施設などでヘルプマークを付けている人が困っていそうだったら、「何かお困りですか」などと声を掛けること。障害により、階段の上り下りや、周りの状況整理などが難しい場合もあります。
- 災害時の避難のサポート。足などに障害があって迅速に動けなかったり、視界や聴覚に障害があり災害情報に気づかず行動が遅れてしまったり、状況がつかめずにパニックに陥ってしまったりすることもあるかもしれません。安全に避難できるよう、支援や指示などの配慮をお願いします。
今号(2024年秋号)の内容
詳細は「杉本クリニックだより」をご覧ください。
・脳と腸の不思議な関係?
・レジェンドに聞く「私の健康法」
・高齢者の体と心を知る
フレイル予防で健康長寿
・医療機関で行う検査を知ろう
身体計測と血圧検査
・初めての手話
八幡平(秋田県、岩手県)
・ひとくち病気解説
鼻ポリープ
杉本クリニックだよりは窓口で無料でお配りしています。
脳と腸の不思議な関係 脳腸相関ってなに?
強い緊張があるとお腹の調子が悪くなる、という経験がある人も多いでしょう。逆に感染症などで腸がダメージを受けると、体調や心の動きに影響が現れることもあります。今回はこうした脳と腸の不思議な関係性である「脳腸相関」について解説します。
会議や試験の前、苦手な人との出会いなどがあると、食欲がなくなったり腹痛に悩まされたりすることはありませんか。これは、不安やストレスが胃や腸などの消化管に伝わって、機能や動きに影響を与えていることを示しています。逆に、食べた物や薬、感染症などによって消化管で発生した変化が、ストレスや精神疾患の引き金になることがあります。
このように、脳と腸は何らかの信号をやりとりして互いに影響し合っています。これを「脳腸相関」と呼んでいます。
腸は第2の脳
脳と双方向の信号のやりとりを行っている点では、例えば指も同様です。指は脳の指令で自由に動かすこともできますし、指が何かに触れれば、「熱い」「痛い」といった感覚を脳に伝えます。
一方、腸には2つの大きな特徴があります。まず第1に、腸には「腸管神経系」と呼ばれる神経組織が隅々まで張り巡らされていることです。神経細胞(ニューロン)の数は数億個で脊髄に匹敵し、末梢器官としては最大です。単に栄養を吸収するだけの受け身の器官ではなく、脳の指令がなくても自律的に機能することができるため、腸を“第2の脳”と呼ぶ人もいます。
腸のもう1つの特徴が「腸管バリア」と呼ばれる機能です。腸は常に外から取り入れた食物や腸内細菌と接しています。このため、細菌や毒素など有害な物質が体内に侵入しないように強力な防御態勢をとっているのです。
腸の粘液の表面は粘液で覆われ、細胞同士ががっちりと結合して、細菌などを物理的にシャットアウトしています。さらに免疫力によって、侵入してきた病原菌などを無力化する仕組みです。腸には全身の免疫細胞の7割が集まっているとされています。
また、人間の小腸や大腸には、1000種類もの腸内細菌が棲みついています。その総数は100兆個と、人体の細胞数を上回ります。この腸内細菌も脳腸相関に関わっていることが次第にわかってきました。このため近年、「脳・腸・腸内細菌相関」と呼ばれることもあります。
脳と腸は複数のルートで連携
脳と腸が信号をやりとりする主なルートには、神経系、免疫系、ホルモンなどがあります。副交感神経の一種である「迷走神経」で直接接続されているほか、免疫の仕組みやホルモンの分泌を介してお互いに影響を与え、生活習慣病など多くの病気の発病や悪化、回復、健康維持などに関連しています(図)。
「脳から腸」への影響の一例を見てみましょう。ストレスが強く関わるとされる病気の1つに、過敏性腸症候群(IBS)があります。胃や大腸を内視鏡で調べてもがんなどの異常が見つからないのに、腹痛や便秘・下痢を繰り返す病気です。
健康な人でも、ストレスがあるとお腹の調子が悪くなることもありますが、IBSの人は、より少ないストレスでも消化器症状が出やすく、また腹痛を感じやすいことがわかっています。また、ストレス耐性が低い人やうつ病などがある人は、IBSや便秘などが起きやすいとされています。
反対に、「腸から脳」への影響についても、腸内細菌の影響を含めて様々な研究が行われています。例えば、精神疾患や、パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患などでは、腸内細菌の種類や数に変化が起きていることが明らかになっています。
動物実験や人間を対象とした一部の実験では、認知機能やストレスなどが改善したという成果も出ています。例えば、徳島大学と乳酸菌飲料メーカーが行った実験があります。医学部4年生140人を対象に、乳酸菌飲料を飲むグループと、乳酸菌飲料と味が同じ疑似飲料を飲むグループとの2群に分け、進級試験の2週間前からそれぞれ飲んでもらったところ、乳酸菌飲料を飲んだグループではストレスが抑制されたという結果が得られています。
このように、「脳」「腸」「腸内細菌」は密接に関係しており、生活習慣病や胃腸の病気と、認知症やストレス、うつ、不安など心や脳のトラブルが、互いに結びついていることがわかってきました。
まずはバランスの良い食生活から
現在では多くの研究者が注目して、病気が起こるメカニズムに深く関係している腸内細菌を突き止めようとしていますが、特定の食品やサプリメントによって治療効果が得られるといった強力なエビデンスはまだ得られていないのが現状です。
私たちにまずできることは、喫煙や過度の飲酒を控え、食事は魚やフルーツなども含めてバランス良く、適量を食べることです。また、体に良いとされる食品やサプリメントをとる場合、とり過ぎたり、効果が得られないのに漠然と続けたりしないようにしましょう。医療機関を受診する際は、摂取しているサプリメントなどについても医師に伝えてください。
フレイル予防で健康長寿
要介護状態にならないために
フレイルは、簡単に言えば「健康」と「要介護状態」の間の「弱っている状態」です。早めの対策で予防・改善し、人生100年時代を自分らしく生きましょう。
監修:杏林大学医学部高齢医学 教授 一般社団法人日本老年医学会 理事長 神崎亘一氏
「以前より疲れやすくなった」「出かけるのが面倒な時がある」「駅の階段を上がると息切れがする」。
このように、体と心の動きが弱くなってきた状態をフレイル(虚弱)と呼びます。わが国では、後期高齢者(75歳以上)の4人に1人がフレイルといわれています。
フレイルには、筋力が低下して転びやすくなる「身体的フレイル」のほかに、物忘れや気分の落ち込みが続く「認知・精神的フレイル」、社会的交流の減少や経済的な問題などによる「社会的フレイル」があり、複雑にからみあっています。
つまりフレイルは、単に身体的な機能低下だけではないのです。
このフレイルを放置すると要介護状態に進む危険があるため、早く気がついて適切な対策をとる必要があります。幸いなことにフレイルは健康な時から予防ができますし、フレイルになっても適切な対策を講じることで再び健康な状態に近づけることができます。病気と同じように、フレイルも早期発見、早期予防、改善が肝心です。
フレイル対策3つの柱
フレイル対策の柱は、「社会参加」「栄養」「運動」の3つとされています。
「社会参加」は、ボランティアや就労活動など、自身のできる範囲で社会とつながりを持つことをお勧めします。
「栄養」は、食・口腔機能の維持を指します。かむ力がしっかりとしていて、栄養バランスの良い食事をとれているかどうかがカギです。筋肉維持のための、たんぱく質をしっかりとってください。
「運動」は、家事や仕事の際に、こまめに体を動かすことを心掛けてください。暮らしの中で活動量を増やすことが大切です。
あなたは、大丈夫?フレイル危険度チェック
最後にフレイル危険度チェック(表)で、自身の状態を確認しておきましょう。少しでも気になれば、かかりつけ医や地域包括支援センターなどに相談してください。
コラム
「フレイル」と似た概念で時々耳にする言葉で「サルコペニア」があります。
サルコペニアは、ギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ」と減少を意味する「ペニア」の造語で、筋肉が減り、かつ筋力が低下した状態を指します。フレイルの最大の要因がサルコペニアといわれていますので、フレイル予防には、サルコペニアの対策が不可欠です。
医療機関で行う検査を知ろう
自分の健康状態を知り、病気を予防するため、定期的な健康診査(健康診断)が勧められています。健康診査は略して「健診」と呼ばれ、がんなどの特定の病気があるかどうかを調べる検査が「検診」です。
健診には、健康増進法に基づいて市町村が実施する健診や、労働安全衛生法に基づき実施が義務づけられている健診(法定健診)、個人が任意で受ける人間ドックなどがあります。また生活習慣病の予防のための「特定健康診査」は、40歳から74歳までの公的保険の加入者を対象に年1回行われています。
定期的な健診で病気を予防する
健診でまず行われるのが身体測定です。身長と体重から肥満度を示す体格指数(BMI)を算出することができ、〔体重(㎏)〕÷〔身長(m)〕の2乗〕で計算します(図1)。体重が62㎏、身長が167㎝の人のBMIは、適正とされる22になります。25以上は肥満、18.5以上25未満は普通体重、18.5未満は低体重(やせ)に分類されます。
しかし同じBMIでも、内蔵脂肪の蓄積が多い人の方が生活習慣病になりやすいことがわかっています。腹囲は内臓脂肪蓄積の目安とされ、へその高さで水平に測ります。ウエストが最も細いところではありません。男性85㎝以上、女性90㎝以上(どちらも内臓脂肪面積が100㎠以上に相当)で、脂質異常症・高血圧・高血糖の3つの項目のうち2つ以上満たしていると「メタボリック症候群(メタボリックシンドローム)」と診断されます。
血圧は高くても低くても注意
血圧は、血液が血管を流れる時に血管壁にかかる圧力のことです。心臓が収縮して血液を送り出す時の血圧を収縮血圧(最高血圧)、全身からの血液が心臓に戻ってきて心臓が拡張する時の血圧を拡張期血圧(最低血圧)といいます。
血圧は緊張したり、ストレスや運動によっても変動しますので、血圧検査の時は可能であれば15分くらい前から、最低でも1、2分は安静にし、腕を心臓と同じ高さにして測定します。
日本高血圧学会の高血圧診断基準では、診察室での収縮期血圧が140㎜Hg以上、または拡張期血圧が90㎜Hg以上の場合を高血圧と診断します(家庭血圧では135/85㎜Hg)。
高血圧は自覚症状がないことがほとんどですが、高血圧の状態が続くと、動脈の血管壁に負担がかかり、動脈硬化を進行させ、心疾患や脳血管疾患のリスクが高くなります。
一方、低血圧は様々な原因で起こりますが、特に注意が必要なのは急性の低血圧です。出血・敗血症・心臓病・血栓症・重度の脱水・薬の副作用などによって急激に血圧が下がると、全身に十分な血液が供給されず、全身の臓器に異常が起こることがあります。また特に高齢者では血圧が下がると転倒などの危険性がありますので、定期的な血圧測定が大切です。普段よりも血圧が低く、めまいやふらつきなど、いつもとは違った症状がある場合には、医療機関にご相談ください。
一口病気解説 鼻ポリープ
「鼻茸」ともいわれます。この名前からもわかるように、鼻の中に茸のような形をした柔らかい塊(ポリープ)ができる病気です。このポリープは鼻の粘膜の一部が水ぶくれになったもので、大きさは小指の先ぐらいのものから、鼻腔・副鼻腔全体に広がるほどの大きな場合もあります。
鼻ポリープは、多くの場合、かぜやアレルギー性鼻炎などによる慢性鼻腔炎(蓄膿症)に伴って起きます。
鼻ポリープ自体は、悪性ではありませんが、鼻の空気の通り道にできることが多いため、鼻の機能が妨げられるので、息がしにくくなったり、鼻汁が多く出たり、臭いがわからなくなったり、鼻詰まりや頭痛がしたりします。日常生活上、苦痛になりますし、放っておくと鼻の機能が元に戻らなくなることもありますから、早めの治療が大切です。
治療は、抗菌薬を服用したり、霧状の薬を鼻から吸い込んだりする薬物療法もありますが、それだけで完治は難しく、ある程度大きくなると根本的な治療として手術を行います。日帰り手術ができる場合もあります。
鼻ポリープは一度治療しても再発する可能性がありますから、医師によく相談してきちんと治療を行ってください。