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尊厳死を考える

尊厳死を考える

延命か否か重い選択

2012年8月24日、25日 朝日新聞より

患者の意思表明があれば、延命措置をしなくても医師は責任を問われないとする「尊厳死法案」。今国会に提出の動きがあるが、国民それぞれの生死のあり方にまで踏み込む内容となるだけに、賛否両論が巻き起こっている。

死期迫る事故・難病患者も対象

命の瀬戸際に、望んだ医療を受けられず、割り切れなさを抱えたまま生を終える患者がいる。横浜市でクリニックを開く医師(49)がかつて診察した高齢女性もそうだった。
がんを患い、自宅で療養していたが、帯状が悪化し、大きな病院へ。鼻から入れたチューブを通して栄養補給する延命措置を受けたが、本人はやめたがった。病院側は「1度始めたものはやめられない」と言い、継続することに。女性は望まぬ医療を受けたまま、他界した。のこされた夫にも「選択できなかった苦しみ」が残った。
終末期の患者には二つの道がある。1日でも長く生きるため延命を続ける選択と、延命を望まない選択だ。開業医は言う。「どちらにせよ、患者や家族が思った方を自由に選べるようにするべきだ」 尊厳死法案は、延命措置を拒みたい人の権利を確立しようとするものだ。

法案は終末期を「すべての適切な医療上の措置を受けた場合でも、回復の可能性がなく死期が間近にある状態」と定義。終末期の判定は、経験と知識のある複数の医師が行うとする。終末期の患者(15歳以上)が書面などで意思表示をしていれば、その希望に沿って医師が延命措置をしないことを認める。
食べられなくなり胃に栄養を管で送り込んだり、自発呼吸ができなくなり首もとに穴を開けて人工呼吸器をとりつけたりする延命措置は、医療現場で行われている。法案を当てはめると、事故や末期がんなどの重病、進行性で治療法がない難病で死期が迫る患者らが対象になりうる。

法案は二つの案があり、延命をやめるタイミングが違う。追加の措置をしない「不開始」に限るものと、今行っている措置の「中止」まで含むものだ。
現在、衆参合わせ約120人が名を連ねる超党派の議員連盟は2005年にできた。07年には法案のたたき台を公表したが、さまざまな意見があり、法案化は先延ばしになっていた。国会に法案が提出されれば初めてとなる。

免責医師の「後ろ盾」

延命中止をめぐっては、日本救急医学会が07年のガイドラインで「さらに行うべき治療法がなく、現状の治療を継続しても数日以内に死亡することが予測される」といった四つの状態を終末期として例示。呼吸器の取り外し、水分や栄養の補給中止といった具体的方法を列挙して手続きの進め方まで示している。

だが、議連の増子輝彦会長(民主)は「法的な効力はなく十分ではない」と、法律が必要との立場だ。
法案は、医師の免責をはっきりとうたう。適切な手続きを踏めば延命をしなかった医師の刑事、民事、行政上の責任を問わない。
筋弛緩剤で患者を死亡させた川崎協同病院事件や、人工呼吸器を取り外した患者7人が死亡した富山県の射水市民病院事件などで、医師の刑事責任の有無が問題になった。増子会長は「どんな条件で免責されるのかを法律で決めないと、医師側が萎縮しがちで患者が望むままの尊厳死は進みづらい」と説明する。

オランダのように薬物投与で死期を早める「(積極的)安楽死」を一定の条件で認める国もあるが、尊厳死法案は認めない。
市民ら12万人余りが会員の日本尊厳死協会は1976年に設立され、尊厳死の法案化を求めてきた。医師でもある岩尾総一郎理事長は「終末期医療のガイドラインは厚生労働省も出しているが患者本人の決定を基本としつつ「最後は医療チームの判断による」としている。現状では(法的な)後ろ盾がなく医師が判断できない」と成立に期待する。

一方、反対の声も多い。日本弁護士連合会は今年4月の声明で、現在も経済的負担や家族の介護負担に配慮して延命を取りやめる患者がいると言及。真の自己決定をするには医療や介護、福祉による支えが不十分で、「法制化を検討する基盤がない」と批判した。障害者団体の間でも、反対の声は根強い。日本医師会は立場表明していない。

国会の会期末は9月8日。議連は「法案はたたき台」とし、会期中の提案を目指す。

残酷な生き方はさせたくない

国会への提出が検討されている尊厳死法案は、回復の見込みがない死期間近な人が、延命措置を拒否できるとする内容だ。命と向き合い続ける患者や家族たちの目に法案はどう映るのか。

寝たきりの妻介護

富山市の松尾幸郎さん(76)は6月、スイスであった「尊厳死連合世界大会」に出席し、日本での尊厳死の法制化を訴えた。妻の巻子さん(69)は6年前の交通事故で寝たきりの状態。まばたきの動きだけで意思を伝える妻の将来を案じ、「まずは活発な議論が必要だ」と話す。

巻子さんは、少年(当時19)の居眠り運転による衝突事故にあい、顔の神経の一部以外の自由がきかなくなった。人工呼吸器をつけ、胃の中に外から菅を入れて栄養を補う胃ろうを受けている。
幸郎さんとは会話補助装置を通じて言葉を交わす。視線の先の一文字一文字をまばたきの回数で確認しながら言葉を紡いでいく。
幸郎さんが「巻子の言霊」としてその言葉を記録したノートは現在21冊目。初めて死を望む言葉が伝えられたのは2009年4月だ。翌日には「あなたのねんれい(年齢)でまいにち(毎日)よゆう(余裕)がありますか」。幸郎さんの負担を苦痛に思う心情が綴られた。

幸郎さんは「私が生きている限り、巻子を守る」と考えるが、昨年1月に膵臓の手術をし、自分が先に死んだあとを思うようになった。
「誰かが巻子に『ダディが死んだ』と伝える。そのとき巻子は悲しむと思う。死を願うと思う。でも自分で呼吸器をはずすこともできない」。そう一息に言い、続ける。「こんなに残酷な生き方はないでしょう。そこまでして生きなきゃいけないのか」

アメリカでの生活が長かった幸郎さんは、死が迫ったらどんな治療内容を望むかを記した書類「リビングウィル」を50代で作成している。「『最後の生き方』について、自己決定権が保証されるべきだ。まずは、多くの人に尊厳死について考えてほしい」と語る。

家族の負担放置命断念へ圧力

「私たちに『生』の断念を迫るのですか」。全身の筋肉が萎縮する難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)患者の土居賢真さん(40)=東京都=は法案に否定的だ。

ALSは進行すると自分で十分な呼吸ができなくなるが、人工呼吸器を着ければ何十年と生きられる人もいる。
ただ、呼吸器を装着すると、たんが詰まらないか24時間見守りが必要になり、家族の負荷は増す。中には、自分の命と、家族の介護負担をてんぴんにかける人がいる。日本ALS協会の川口有美子理事によると、装着する人は3~4割にとどまる。
法律ができたら、尊厳死が奨励される雰囲気が生まれないか。家族負担の軽減が不十分なままでは、その空気が「圧力」へと姿を変え、装着せず亡くなる人が増えるのでは―-。土居さんは危惧する。
特に地方の患者ほど影響を受けやすいと感じる。

呼吸器をつけ自宅療養するALS愚者は、障害者自立支援法による訪問介護を公費負担で受けられる。
ところが、昨年8月まで住んでいた茨城県内の市はもともと介護事業所の数が少ない上、「たんの吸引に対応できない」と、軒並み断られた。

65歳の母だけに頼るわけにいかない。患者を支援する知人の助言があり、都内に引っ越し、生き延びられた。今は夜間も含めヘルパー派遣が受けられる。「引っ越す余裕がなければ、死ぬしかない現実があるのです」
取材を受けるにあたり、土居さんがまとめた文書の「終わりに」には、こうあった。
「高校時代の教師が言ったことを覚えています。『弱者を簡単に見捨てる社会は、存在価値がない』。いま一度、ゼロベースでの冷静な検討を求めたいと思います」

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